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大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)3148号 判決

事実

原告大阪南信用組合は、被告有限会社岩井屋旅館が、有限会社旅館寿苑名義をもつて、昭和三三年二月一三日額面金二〇〇万円の約束手形一通を株式会社浜上建設にあてて振り出したと主張し、その適法な所持人として右手形金の支払を求めた。被告岩井屋旅館は右手形の振出人は被告とは別個の有限会社寿苑であると抗争した(その他の争点省略)。

理由

手形の振出人が自己を表示するに当つて、正式の氏名、商号をもつてせず、通称その他の別名を用いることは手形法上はなんらさしつかえのないことであり、このことは法人にあつても同じことで、法人の機関が法人を手形振出人として表示するに当つて、その法人の登記簿上の名称でなく、通称その他の別名を記載することは許されることである。登記簿上の正式の名称以外の各称が用いられた場合には、それがその法人を表示するものとして用いられたかどうかの事実問題が残る忙すぎない。その名称の人または法人が他に実在する(許諾をうけて借用、無断で冒用もしくは偶然の一致で生ずる)かどうかということは右事実問題の判定に微妙な影響を及ぼすであろうことを否定しえないとしても、実在しないことは必ずしも、絶対的消極要件をなすものではなく、いわんや実在する場合に、その者に対する帰責事由があるかどうかは全然別個の問題である。ところで、本件においては、証拠によれば、古茂田享は被告会社の代表取締役として岩井屋旅館の経営に当つているものであるが、昭和三二年四月頃これとは別個の旅館を新築し、有限会社寿苑の呼称のもとに自ら旅館業を営んでいること、右呼称の有限会社は登記簿上に存在せず、それは古茂田個人の営業であり、それは被告の通称その他被告を表示する別名ではないことが認められる。そうすると本件手形は被告会社の代表取締役古茂田享が個人の営業上の通称である有限会社寿苑の名義で振り出したものであつて、被告会社の振り出したものではないから、本訴請求はすでにこの点において失当として棄却すべきである。

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